個人事業を法人に移すことです。法人を設立すれば終わり、というものではありません。非常に多くの検討課題があります。メリットどデメリットの双方をきちんと理解することが大切です。
■単純に会社を設立すれば終わり、と考えている方もいらっしゃいます。しかし、非常に多くの面で違いが生じるのが現実です。安易にすべきことではありません。
■個人と法人、どちらが有利か?
ほとんどの方がこの質問をされます。単純にどちらが有利などと言い切れるものではありません。何の目的で法人成りするのか、何を重視するかによって有利不利は変わります。例えば、社会保険の金額が高いと感じる人にとって法人は不利ですし、逆に社会保険の手厚い給付に魅力を感じる人には法人は有利と言えます。法人成りには非常に多くの要素が絡んできます。どちらが有利と言い切る人がいたら、その人は法人成りのことをよく理解していない人だと思います。法人成りのある一面だけを捉えて判断している人が多いので、法人成りに関する噂話については鵜呑みにしないことをお勧めします。
■何も考えずに法人成りをし、やはり止めておけば良かったと考える人もいます。希にですが、法人から個人に戻したいという相談もあります。
法人成りを考えるきっかけは人それぞれです。法人成りにする明確な目的が必要です。なんとなく法人の方がかっこいいといった考えでするべきものではありません。
よくある法人成りのきっかけは次のようなものです。
■税務上の理由
税理士さんから勧められるケース。「法人になれば税金が安くなる」といった話を聞き、法人成りを考える場合は割と多くあると思われます。法人成りをすると、事業所得から給与所得(役員報酬になるので)に変わります。この際に給与所得控除が得られるという点が節税になるという意味になります。
節税になるという側面は否定しませんが、その分(あるいはそれ以上)社会保険料の負担が増加する点を忘れてはいけません。法人の場合は社会保険(厚生年金・健康保険)の加入は必須です。税金だけでなく社会保険料の負担も考えないと、とんだ見込み違いになります。実際に、社会保険料は相当高額です。税務的な試算のみで法人成りをすることは非常に危険です。
■社会保険上の理由
法人成りをしますと、社会保険には強制加入になります。よって事業主さんが社会保険に入りたいという場合は、法人にする以外に手段がありません。そういう理由で法人成りされる方もいらっしゃいます。
■取引上の理由
相手が大手企業の場合、信用性から法人でないと取引しないと言われる場合があります。
■信用上の理由
個人より法人の方が信用があるので、という理由で法人成りをされる場合も多くあります。
これは事業の性質(業種)によります。対個人の商売ですと会社の方が良い場面が多くあります。しかし飲食業の場合などは屋号で事業展開を行いますので、特に法人だからといってメリットがあるわけではないことも多いです。
中小企業の場合は、所詮、社長次第ですから、法人だからといって個人よりも必ず信用があるとは限りません。
例えば資本金10万で会社を設立しても、そのような企業は個人企業と同じですから、特に違いが生じるとは思えません。
■事業承継上の理由
事業を子息に承継させることをきっかけに法人成りをする場合も多くあります。この場合は将来の相続なども考えて、どのような会社にするかを考える必要があります。
法人成りの場合、既存の資産をどうするか、現物出資をするのかという問題があります。
■現物出資
法律上、現金を出資せず、物そのもので出資することを現物出資といいます。法人成りの場合、現物出資したらよいのではないかと思われる方もいらっしゃいます。法律的には可能ですが、当方では、行いません。金銭出資をしてもらい、簿価で買い取るという形を取ります。現物出資は手続き的に、経理的に面倒であるということが理由です。
個人から法人に減価償却資産を簿価(原価)で売却しますので、譲渡所得は発生しませんが、消費税の課税対象にはなりますので注意が必要です。
法人成りをすると、税務的には多くの違いが生じます。きちんと理解しておきましょう。
■個人事業の場合は、事業所得として税金を納めます。青色申告の場合は最大65万円の控除(特典)を受けることができます。
■法人成りしますと、通常個人事業は廃業します(廃業届を税務署に提出します)。その代わりに法人の役員に就任し、役員報酬を得ることになります。
■役員報酬
法人成りをすると、役員に就任し、給与をもらいますので、給与所得になります。所得の種類が変わるわけです。例えば500万の利益があったとします。
500-65(特別控除)=435万
事業所得としては、435万になります。
これを500万の給与としてもらうと(500万の役員報酬を取ると、法人の利益がゼロになるとします)、
500-154(給与所得控除)=346万
給与所得としては346万になります。
このように税金の計算上は100万近くの差がでますので、これで節税できるということになります。
■均等割(デメリット)
個人事業の場合は、利益が出なければ税金を払うことはありませんが、法人は赤字でも税金を払います。これを均等割といいます。
国税ではなく、地方税です。よくあるパターンは(自治体によって異なります)、
県税 2万円(福岡県は21000円)
市民税 5万円
です。ですから法人は赤字でも7万程度は払わないといけないということは覚えておいて下さい。これはデメリットですね。
■消費税(メリット)◎
資本金を1000万未満で設立した場合、消費税が最大で2期免税になることも大きなメリットです。設立の仕方によっては最初の1期しか免税にならないこともありますので要注意です(基準期間だけではなく、特定期間のチェックも必要です)。
■繰越損失(メリット)◎
個人の場合、ある年度に出した赤字(繰越損失)は翌年以降3年間に亘って使えますが(3年の間に出た利益と相殺できる)、法人の場合は、9年間使えます。ですから3年に亘って赤字が出て、4年目に黒字が出た場合、個人では3年前の赤字で相殺できませんが、法人ならできるということです。
■将来の相続
将来の相続においても法人成りをするしないで違いが生じたりします。法人成りをした場合、通常個人事業主は出資をして(株式会社の場合)株主になります。将来、この株式が相続財産になります。会社の利益が出れば株式の評価額が上がることになります。ですから相続税を安くしようとすれば、次の世代(子供)に株主になってもらった方が良いということもあります。安易に株主を決めることは将来に禍根を残します。
■不動産
法人成りをした場合、個人の建物を法人が借りるという形になることが多くあります。この場合、法人は個人に家賃を支払います。個人としては法人に不動産を賃貸していることになりますので、不動産の相続税評価が下がるというメリットが生じます。法人成りは将来の相続も考えた上で実行する必要があります。
社会保険の上でも多くの違いが生じます。金銭的な負担も大きいため、よく検討すべきです。社会保険の加入はメリットと感じる方とデメリットと感じる方がいらっしゃいます。
当オフィスは社会保険労務士でもありますのでこの点もきちんとご説明します。社会保険料がいくらになるか、法人成りの前に試算します。
■まず、法人の場合は、社会保険は強制適用になります。入りたくない、と言ってもダメです。役員も社員も同様です。とりあえず加入してみて、やっぱり止めた、ということはできません。
■代表取締役は必ず加入することになります(報酬を払っている場合)。代表取締役が加入しないということは基本的に無理です。
■デメリットとてしては、保険料が高いという点に尽きます。大体、給与額の約13~15%程度は負担が増加します。但し、役員報酬を低めに設定した場合は(特に夫婦として試算した場合)、個人時代よりも安くなることがあります(国民健康保険が上限額を払っており、かつ法人成り後、奥さんを3号被保険者にした場合など)。
先ほどの例で年間500万の給与としますと、約月6万程度になります(40歳以上の場合)。年間では72万です(個人負担の別に会社が負担する額)。個人負担と会社負担では144万に達します。税金が安くなったと言って単純に喜んではいけないわけです。
但し、個人の場合は国民健康保険料と国民年金を払っており、これがなくなりますから、単純に144万負担が増えるわけではないです。
■傷病手当金(メリット)◎
傷病手当金があります。万が一、病気になり報酬の支払いがなくなった場合は、健康保険より、給与額の約3分の2が1年半に亘って支給されますので、非常に大きなメリットと言えます。よって事実上、民間の医療保険に加入したような形になりますので、既に加入済みの民間保険の保障額を減らし、負担軽減に役立てることも可能です。
■年金給付(メリット)◎
将来の老齢厚生年金の額が増えることも大きなメリットです。或いは万が一の場合の障害厚生年金や遺族厚生年金も国民年金に比較してかなり高額になることも知っておくべきでしょう。
■在職老齢年金の支給停止(デメリット)
既に老齢年金を受け取っている方が法人成りをする場合は、役員報酬の額及び年金額によっては、年金が支給停止になります。この点はよく注意して下さい。
法人成りに際しては許認可についてもよく検討しておく必要があります。法人でないと取得できない許可もあります。
■建設業の許可(デメリット)
建設業の場合、建設業の許可は法人に引き継ぐことができません。新規取得になります。但し、経営審査は法人の設立の仕方によっては引き継ぐことが可能です。
■個人で建設業をされている方の場合、今の入札参加資格(経営審査)を引き継ぐ形で子息に事業を渡そうと思えば、法人成り以外に選択肢がありません。個人から個人に事業承継をした場合、許可は新規になり、入札参加資格(経営審査)を引き継ぐことはできません。
■許認可が絡む場合は、法人の目的に許認可に係る事項を記載しておく必要があります。
■介護事業を行う場合(指定事業者になろうと考えられている方)は法人が必須となっています(県の条例によりますが、ほとんど法人であることを要件にしています)。個人では指定を受けることができません。
法人成りをしない方がよいと思われる場合もあります。
■利益が出ていない場合
社会保険料の負担や、税理士さんへの報酬が新たに発生しますので、これらの費用負担が重いと感じる場合は、素直に止めた方がいいと思われます。
■目的が明確ではない場合
何のために法人成りをするのか、明確な目的がない場合は、後悔することもあると思われます。
■社会保険(厚生年金・健康保険)に加入したくない場合
社会保険に加入することについてデメリットしか感じない方の場合は、止めた方がいいと思います。一旦法人として社会保険に加入した場合、脱退することはできません(脱退の手続きがありません)。
その他のメリット・デメリットをまとめておきます。法人成りの可否には総合的な判断が求められます。
■インターネット通販(メリット)◎
ネット通販を行う場合、個人よりも法人の方が、決済手段が多く用意されていると思います。法人の方が信用できるということだと思われます。これはメリットです。
■生命保険(メリット)◎
法人の場合は、受取人を法人とすることで、保険料を全額経費にすることが可能です(万が一の場合は、法人が保険金を受け取り、社長に退職慰労金や弔慰金という形で渡します)。
個人の場合は生命保険料控除で最大10万円しか経費処理できません。
■小規模事業共済(メリット)◎
個人事業を廃業とすることで、実際には廃業していないにもかかわらず、共済金を受け取ることができます。もちろん、受け取らずに継続していくこともできます。
■事業承継(メリット)◎
事業承継の場面で有利になることがあります。いわゆる事業承継税制と言われるものです。これは法人の場合のみ認められていますので、メリットです。
■税務申告(デメリット)
個人事業の場合は、自分で税務申告することが可能ですが、法人の場合はほぼ不可能と思われます(非常に複雑です)。ですから税理士さんに依頼する必要があります。よって税理士さんへの報酬の支払いが必須になります。報酬額は税理士さんにより異なりますが、10万を下るようなことはまずないと思われます。金銭的にはデメリットかもしれませんが、有益な助言をもらえるのならばデメリットとまでは言えないと思われます。
■役員変更登記(デメリット)
法人になりますと、株式会社の場合は、役員の任期(最長10年)がありますので、任期ごとに役員の変更登記申請を行う必要があります。印紙代や司法書士さんへの報酬が必要となりますので、これはデメリットと言えます。
★当方では豊富な法人成り経験を有しています。税務面は税理士と提携し、許認可、社会保険等の手続きも当方で一括受注しております。是非ご相談下さい。
法人成りをしますと各種の行政手続きが必要になります。主な手続きをまとめておきます。当オフィスでは税理士と提携し、全ての手続きを一括して行うことができます。
■税務署
個人事業の廃業届、法人設立届一式(青色、給与支払事務所開設など)。
■県税事務所
法人設立届(通常、定款と登記事項証明書を添付)。
■市町村役場
法人設立届
■労働基準監督署(雇用している場合)
名称変更届
■公共職業安定所(雇用している場合)
各種変更届、同一事業主要件証明書など
■年金事務所
新規適用届(資格取得届、扶養届等)
(建設業の場合)
建設業許可(新規)
経審(法人として受け直す)
入札参加資格変更届
業種に応じた変更届等(電気工事、水道関係など)
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